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2019-12-05

文明通信2019年12月号

文明通信2019年12月号表
文明通信2019年12月号裏

「あの日の面談席がカフェのカウンターに変わる日」

16年前の夏、私は前職(学習塾運営)の辞令により富士吉田教室長兼山梨の他の6つの教室の統括エリアマネージャーとして未踏の地、山梨県富士吉田市に異動となりました。
当時私はちょうど婚約をしたばかりでしたが、妻が山梨に来るのは二か月先のことでしたので、しばらくはアパートに独り住まいでした。徒歩圏内にコンビニはなく車を持っていない私はいったい何を食べて生きていたのか今やあまり記憶になく、あるのは部屋のサッシ全面を額縁にした絶景の富士山(本物)の記憶くらいです(笑)。
富士吉田教室長の初日、「今日から毎日10人くらいずつ生徒を覚えていこう(計100人近くの生徒がいました)」と思っている一方で生徒たちは「新しい教室長が来た」というそこはかとない緊張感が教室全体に漂っていました。
そんな時、一人の男子高校生Tが険しい表情で私のところに来て言いました。
「S先生(前のここの教室長)はどこに行ったんですか?納得いかないっすよマジで!」
受験を控える大事な時期に教室長が突然変わる事態(学校で担任が変わるようなもの)に憤りつつかつ緊張もしつつ、しかし思いのたけをハッキリと私にブチまけてきたのです。
高校では生徒会長もし、塾内でも番長(死語?)格の彼は周囲の生徒を巻き込んで陰湿に責めてくるわけでなく直接いきなり敵本陣(私)の元に飛び込んできたその姿勢がとてもカッコよく、さすが番長(だから死語だって)!というわけで、私は彼を面談席に誘い、
サシで、ありのままの話、つまり教育現場においてはあまりに生徒に対して非情で、中途半端な時期の今回の人事異動ということに憤る彼への深い共感、さらに私自身のこと、そして彼の現況把握と進路について等、完全本音全開トーク炸裂で、おそらく(いや絶対)教室中の他の生徒全員我々のトークに耳をそばだてていたと思うのですが、そんなこんなで私の富士吉田教室の初日はその一人の高校生との話し合いで終わっていきました。
~この話はいったんここで中断します~

ここからは16年後の今年の話です。ある日、六角橋食品館「あおば」で買い物をしているとレジの女の子に「ブンメイさん!」と声をかけられました。買い物時のレジで完全に油断していた私はビックリしましたが同時に屈託なく話しかけてきてくれたことがとても嬉しく、その後も彼女は数回来店し、やがて付き合っていた彼氏も連れてきてくれて、晴れて先月二人は結婚することになりました。彼のほうも夜に私が道を歩いていると、わざわざ近寄って挨拶しに来てくれたりもする大好きなナイスカップルです。
そんな彼の実家がなんと富士吉田市だったのです。我々はすっかり彼女置き去りの(笑)ご当地話で盛り上がり、ふと私はダメ元でTの名前を出してみました。Tは彼より学年で5つくらい上なのはわかっていたもののメジャーな生徒だったはずなのでもしかしたら知っているのではないかと思い訊いてみると、知るも知らぬもTは彼の親戚でした(笑)。
彼からの話でTは現在地元の中学で社会の先生をしていることを知りました。
おかしいと思ったことは相手が大人であってもしっかりと立ち向かってきたT。
今度はそんな生徒が彼の前に現れているのかもしれませんが、Tは真摯に生徒と向き合い、熱い指導をしてることでしょう。
その後彼がTに連絡を取ってくれて、Tも私のことをしっかり覚えていてくれており、そのうち珈琲文明にも来てみたいという話になりました。
16年前のあの夏、Tも私も(そう、私も非常に)不安でいっぱいだったあの面談席での対峙から、今度は場所をカフェに移し、カウンター越しにこれまでの時間を埋められる日が来るなんて・・・時の流れはかくも味わい深い。

元某学習塾富士吉田教室長 現珈琲文明店主 赤澤 智

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