文明通信2014年6月号
父からの言葉
6月は母の日ほど注目度は高くない「父の日」があります。私も「父」になって丸三年。まだまだ新米フレッシュファーザーです。さて、私はこれまでの人生のポイントと呼べるその要所要所で、しばしば実父からの言葉を照らし合わせるようにしてきました。私は描く夢や考えに対して、これまで父から反対された覚えは一度もありません。しかしそこまでのプロセスのあり方に対して父が発した二つの言葉があり、その後今日に至るまでずっと自分の中の奥深くにそれは住み続けています。まずひとつは私が社会人になる際に言われた言葉「インチキをしないこと」。簡単な例を挙げます。とあるお店の販売員になったとします。そこの売上金をチョロまかす、これはもちろん論外として、他に「合計金額が合わない(足りない)」という事態が起こった時に自分の財布から不足分を補填したり、また、「売上ノルマ」というものがあるとして、月間売上ノルマ到達のためにやはり自腹を切って事を収めようとする(最近では【自爆営業】などとも言われますね)、これらも「インチキ」であるということ。これらは一見「他に迷惑をかけていない」ように見えるが、実際はそこのお店や会社全体の統計データや効果計測等が正しく行えていないということになり、しっかりと組織に迷惑がかかっていることになります。こういう「インチキ」をしないことで成績が落ちようが出世が遅れようがそれはしょうがないことであり、かつこれまた会社や組織はそう捨てたものでもなく、真面目に健全にやっていることは実はかなり報われることであり、見ている人は必ず見ている・・・というような話を父から聞いた私はやがて学習塾の教室長を任された時に、業務上筆頭優先事項は「インチキをしない」ことに決めました。そして結果的にもそれにより様々なことがうまくいきました。また、我が教室で雇った講師たちに対する私の評価基準は(本部からのそれとは全く異なれど)、「インチキをしない真面目な人間かどうか」の一点だけでした。もう一つは「本当にやりたいこと、やるべきことに対しては【なりふり格好を気にしない】」ということです。己が成し得たいと思っていることを成就させるにあたっては、見た目、傍目には格好良くはないことが多々あります。私は高校生になり突然いわゆる「ガリ勉」になりました。大学に入りたかったからです。「○○を学ぶため」などという尊大な理由は皆無でした。ただ単に高校受験直前に関西から東京に転校してきて、選択の余地もなく私立高校に単願推薦入学しました。当時、受験戦争などという言葉がありましたが、勝負の土俵にすら立たなかった己の悔しさを晴らすためだけに大学に入りたかったのです。たったそれだけのためなのですが、自分にとっては「どうしても成し得たいこと」でした。そのためにすべきことはもちろん「勉強」でした。しかし基本的に進学校ではないこともあり、通学電車の中や、休み時間も勉強せざるを得ませんでした。他にバンドとサッカーもやっていたため、ガリ勉とは呼べないのかもしれませんが、これ以外の本当に全てのこと、例えば恋愛や遊び等は完全に放棄していました。とりわけ「休み時間に勉強するのが格好悪くてやりたくないんだよなぁ」と父にこぼしたことがありました。その時、父が「格好とかそういうのって後々思えばどうでもいいことなんだよ」と言いました。暗闇を走っていた自分は、その途端、強く、明るい光を放つ松明(トーチ)を手にしたような気になり、周囲を気にせず、遠くにあった目標物を一心不乱に目指すことが出来ました。「インチキをせず、格好を気にしない」という言葉のトーチと共にたどり着いた景色は美しいものでした。
~父の日に寄せて~
赤澤珈琲研究所 代表 赤澤 智
今月の逸品(一品)「傘立て」
お客様が来店の際、またはお帰りの際に、ひときわ注目を集め、かつ多大なる賛辞を賜る物体があります。バイオリンの形をした「傘立て」です。メディア取材等では当店の「天井劇場」がしばしば取り沙汰されますが、これまで特に何にも紹介されたこともなく、しかし、それを見た人の食いつきぶりたるや、天井劇場を凌ぐかもしれません。数え切れないくらい「これはどこで手に入れたのですか?」「いくらしたんですか?」と訊かれてきましたのでお答えします。新横浜にある家具屋さんで一目惚れして購入しました。値段は確か2万円前後だった気がします。はい、普通の感覚であれば傘立てに2万円も出しません。7年前の創業準備中はどうかしていたのでしょう(笑)。でも、これほどまでに皆様の目を惹き、テンションが上がっていただけるのであれば大枚をはたいた甲斐があったというものです。梅雨の季節到来と共にいつにも増して玄関に姿を見せる日が多くなります。これまで同様、チヤホヤしてあげてください。