文明通信2026年2月号


「価格改定について」
当店では2/19(木)よりメニューの価格改定を実施いたします。
とうとうコーヒー豆の卸価格が創業当初(19年前)のちょうど倍になってしまいました。
ただこれは19年かけて上がったというよりもここ4,5年で一気に上がった感じであります。
他の様々な食材も一様に値上がりしている昨今ではありますが、今回はコーヒー豆の値段が何故高騰しているのか?ということだけに的を絞ってお話します。
端的に言いますと・・・
① 異常気象・気候変動による生産不振
② 物流・輸送コストの高騰
③ 農業コスト(人件費・資材費)の増加
④ 世界的な需要増
⑤ 為替・マーケットの影響
②と⑤に関しては他の多くの食材、資材に共通していますが、その他の部分はコーヒー豆独自の理由ともいえるかもしれません。
いずれの要因も私のような一個人店オーナーが何を言っても如何ともしがたいというのが現実なのですが、個人的な思いとしましてはとりわけ③に関しては生産者のことを考えるとずっと応援したいし協力したかったという気持ちがあります。
コーヒー豆の生産国は主に途上国が多く、そこで働く生産者は安く使われ、商品も少しでも安く買い叩かれるという歴史がありましたが、④のように多くの国々でかつ多くの人々にコーヒーが飲まれ需要が増すことにより値段が上がりそこで働く農園の人々の賃金も上がっていくという構図そのものは喜ばしいことだと私は思います。
しかしそこ以外はやはりこちらも非常に悲しいし辛い試練の日々が続いています。
ラーメンでは千円の壁というのがあるようにコーヒーには700円の壁があります。
もはやコンビニやファストフード店以外のコーヒーは紙コップのテイクアウトでも500円を超すようになった今日(関係ないですが東京ドームの紙コップビールがとうとう千円になったというニュースをまさに先ほど目にしました)、スペシャルティコーヒー(これは何度も言いたいことですが、一口に「スペシャルティ」と言っても本当に玉石混交あり、当店ではあくまでも「国際審査員がカッピングして80点以上をつけた豆」のことを指しかつそういう豆を使用しています)もやはりこうした壁があるままではやっていけなくなってきました。
今日巷で単なる「値上げ」の他に実に多いなぁと思うのが「ステルス値上げ」というもので、「価格は変わっていないが量(或いは質)が減っている」というアレです。
ファミレスのメニューやコンビニの惣菜等で素人的にもわかるほどあからさまに量が減っていたりします。
当店でもしこれまでの「お1人さまあたり1杯半」という分量ではなく普通にカップ1杯分にしたり生豆のグレードを落としたりするならば値上げの必要はないのかもしれませんが、やはりここは「世界最高グレードのコーヒーをたっぷり飲んでもらう」という従来通りの手法を維持するほうを選びましたのでどうか値上げへのご理解のほどよろしくお願いいたします。
※価格表記は税抜き及び税込みの両方を記載するようにしたのは税抜き本体価格では未だ700円の壁を超えていないということを強調するためであります(笑)。
珈琲文明 店主 赤澤 智
文明文庫「背負い水(荻野アンナ著)」
先日、横浜市が運営する「横浜移住サイト」の取材を受けました。
インタビュアーとして来てくださったのがなんと芥川賞作家の荻野アンナさんでした。
未だ荻野さんの著書を読んだことがなかった私は芥川賞受賞作である「背負い水」を予め購入して読んでから荻野さんをお迎えすることにしました。
考えてみれば昨今の私はビジネス書をはじめ実用書の類ばかり読み、生粋の小説というものをあまり読まなくなっていたことに気づかされました。
個人的な好みの小説は何故か女性作家のものが多いという自覚があります。
山田詠美、湊かなえ、辻村深月といった好みの作家の共通項をあまり見いだせないでいるのですが好きになった作家が結果的に女性であることが多いのです。
今回荻野アンナさんの小説を読んでみてそれはやはり私の好みのド真ん中の文体でした。
そう、文体であるとか描写、表現方法が好みのド真ん中なんです。
例えば主人公が男性とオペラを観に行来た時、席に座っている際の描写を引用します→
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「気が付くと腕が熱い。私の左側に裕さんが座っている。椅子の肘掛けを境にして裕さんの右腕と私の左腕が並ぶ恰好になっている。並んだ腕と腕がいつのまにかくっつきそうに接近していた。くっついているのではない。くっつく寸前、紙一枚の隙間を残している。それでも彼の腕の温かみが確かなものとして私の上腕部に伝わってくる。身動きがとれなくなった。一ミリでも体を動かせばそれが意思表示になりかねない。汗が滲んできた。唾が溜まってきた。唾は普通意識して出すものではない。それとなく口中を潤して、いつとはなしに消えている。それがいったん気になりだすと盛んに自己主張を始めるのだった。後から後から湧いてくる。あっという間に舌の裏に小さな湖ができる。水かさが増えるにつれ喉の筋肉が引きつってくる。もはやこれまで、床上浸水寸前のところで文字通り固唾を飲む。音がする。音がするような気がする。音に隣の人が気付いた気配がするような気がする(「背負い水」P14より)」
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昨今の売れる小説やマンガ等はとにかくストーリーやキャラにインパクトが過重にあり、壮大なスケールや大どんでん返しなど、とにかく読者を飽きさせない設定のものが多い中、荻野さんの作品の舞台は一切の奇をてらうでもない日常であり市井の人。
それでいてそこにある人間模様や情景描写は読んでいてスーっと沁み込んでくる。
そこに上記のように畳みかけるような表現が美しくそれでいて一筆書きのような滑らかさもあり読後にしっかりと切なさも残す・・・。ああこれですよこれこれ、こういう体験が小説の真骨頂なんですよ!
そういった読後感想をご本人に伝えたくてしょうがないのに現実として起こっていることは荻野さんが私に色々と訊いてきて細目にメモしてるという構図がなんだかもどかしかったです。
※そのインタビュー記事の掲載はおそらく今月末か来月初旬になると思われるのでその情報はまた来月の当紙面で告知いたします。







