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2022-01-05

文明通信2022年1月号

文明通信2022年1月号表
文明通信2022年1月号裏

「緊張感のあるルーティンに感謝」

2022年が始まりました。毎月書いているこの文明通信も176号になりました。
当店は創業から14年半経ちますがこの通信は創業以来毎月書いているので単純に176か月経ったわけです。同じことが毎月恒例第四金曜弾き語りにも言えまして、創業以来一度も休んでいないため(コロナ禍で無観客で配信のみということもありましたが)既に175回演奏してきました。私的な生活習慣としてのルーティンではなく他者に向けた「客体化したものの発信」という意味でのルーティンが私の場合例えばもう1つ、カフェラボ(カフェ開業希望者に向けたオンラインサロン)に毎週投稿している会員限定有料記事というのもありまして、毎回常に3000~4000字をこれまた休むことなく投稿しております。
文明通信や弾き語りが無料であることに対し、カフェラボ記事は会費を得て書いているとう違いはあれど、いずれも自分なりに全身全霊をもって向き合い、そこにかなりのエネルギーを注いでいます。ホームページ内のブログ「マスターの日記」やFacebookやTwitterといった各種SNSに投稿しているものはかなり勢い一発といいますか、瞬発力も大事にしてあまり深く考えずに発信していますが、文明通信やカフェラボ指南書記事はやはりスタンスそのものが異なりますしそれゆえ深い部分での共感を得ていただけることもあり、その時の喜びはまた格別であります。また弾き語りに関してはマンスリーで続けていることで、声帯の維持(声帯も筋肉である以上使っていないと衰えます)さらには向上にもつながり、55歳を目前にした今が人生で最も高いキーが出る状態になっています。
こうした何らかの「他者に向けた真剣勝負」のような、しかもそれが一過性のものではなく毎月もしくは毎週定期的に訪れることがあると日常の中にピリっとした緊張感が含まれそれが日々の程よいアクセントになってくれています。
最近思ったことがあります。それはこうした「ある程度の緊張感を持った他者に向けた真剣勝負」が定期的にいくつかあるということ自体が実はとても幸せなことなんじゃないかということです。それと同時に他者に見られる、読まれるということは容赦のない批判にもさらされるということでもありますが、全力を出せる、心血を注げる物事が存在するということがいくつになっても大切なことで幸せなことであると思うのです。
緊張感のあるルーティンがあることに感謝!
珈琲文明は今年で創業15周年を迎えます。本年もよろしくお願いいたします。

珈琲文明 店主 赤澤 智

「風になったあなたへ~新井満さんを偲ぶ~」

何度か来店されたのちに「このお店にカメラとか入ってもいい?」とあなたは言いました。
「いいですが、何をされている方なのですか?」と問うと「物書きです」との返答。
頂戴した名刺から検索し、「【千の風になって】でレコード大賞作曲賞受賞、【尋ね人の時間】で芥川賞受賞、長野オリンピックイメージ監督、日本ペンクラブ常務理事」などなど、これでもかの肩書の数を追ってた目がクラクラしたことを覚えています。
「千の風になって」はもちろん私も知っていて、予め周到に戦略的に作られた巷にあるヒット曲とは明らかに一線を画している高純度のこのような曲がミリオンセラーになるというのは我が国の音楽シーンも捨てたもんじゃないなと思っていました。
でもこの歌を作った人のことはまるで知りませんでした。
作品は超有名でありながら作者は前に出ず、変装も何もせず、堂々と、というより飄々と、それこそ風のようにご夫婦で来店され、以来私と交わした様々な会話の内容はこれからも私の宝物です。数年前の大晦日、年内最終営業日に来店されたあなたに(その夜、紅白で秋川雅史さんが「千の風になって」を歌唱することになっていた)、「今夜はこれからNHKホールですか?」と問うと「いや、家にいるよ」というあなたに「家でテレビでっていうのもなんかイイですね」と続けると「テレビは見るかもしれないし見ないかもしれない」という返答がまたなんだか痺れました。
とある12月26日、まだ店内には木彫りのサンタクロースが仕舞い忘れられていた状態を見たあなたが言った「日本一早いクリスマスの準備だね」という台詞にもまたヤラれました。
「富士山を世界遺産に!」という決起集会のようなものがあって、講演者にはあなたの他に中曾根康弘元首相や長澤まさみらもいて、その後のレセプションパーティーにも招待された私と妻は間違いなくそこで最も場違いな人間で、会場の隅っこのテーブルで飲み食い(しっかり飲み食いはしている)していた我々夫婦のところに来て以後ずっとそこのテーブルに居続けてくれて、多くの関係者があなたのところに名刺を持って挨拶しにくる中、「この方たちは近所の喫茶店の人です」と満面の笑みで紹介してくださった奥様の紀子さんのことも私は一生忘れず謝意を持ち続けるでしょう。
一昨年に私が初めて出版した本を読んでくださったという電話を頂戴したとき、開口の「お元気ですか?」の問いに「元気じゃないねぇ~」というちょっと予想外の返答が来た時に凄く嫌な予感がしたのは事実であります。あの時点でかなり辛い状態だったことが今ならわかるのですが、言葉数少なにあなたが電話の向こうで複数回放ったフレーズが「Love & Peace」でした。世に数多ある言葉や麗句、それらをどれほど駆使し味わい尽くしたであろうあなたが最終的に選び好んだ一言がこの「Love & Peace」だった気がします。
この正月帰省した私は実家の母が「私が死んだ時に流してほしい曲」として「千の風になって」を指定したことを知らされました(これは公式の遺言として手続きを踏んで認定されたものとのこと)。横浜から北海道大沼に居住が変わり、遠い場所から毎年年賀状まで頂戴していましたが、風になったあなたはなんだか今は大沼よりも近くにいるような気がします。
あなたが言う「風とは息」で「大地のいぶき」であり「地球の呼吸」であるならば、風になったあなたは「愛」を呼び「平和」を吸ってという「呼吸」を繰り返し、今日も近くで遠くで吹きわたってくれているんでしょうね。

★Hanako特別編集「喫茶店に恋して。」に掲載されました!
全国の有名店勢ぞろいの本の中、神奈川の部で我が師匠のいる綱島カルディ、コーヒーの大学院ルミエールドパリ、鎌倉イワタコーヒー店というとんでもない重鎮店と同じ誌面に非常におこがましくも掲載されています。月刊誌ではなくムック本ですので、しばらく書店やコンビニにも置いてあるはずですので、ぜひご覧ください。

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