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2015-12-05

文明通信2015年12月号

文明通信2015年12月号表
文明通信2015年12月号裏

「あの日の熱量」

飛行機は離陸の時に最も多くのエネルギーを使うように、
スピードスケートの選手はスタート時に氷上を走るように速く細かく足を動かすように、
軌道に乗る前の物事の最初というものは多くの熱量を伴います。
平常の状態ではそういう行動に出ない、つまりは常軌を逸した行動で、
時にそれは他人には滑稽に見えたりしても本人は真剣そのものでなりふり構っていられない、そういう時があるものです。
珈琲文明の離陸(開業)前、ケーキ作り全般にド素人だった私は、専門学校でケーキの実習をしたり、ネットで情報を集めたり、チョコとチーズの二つだけではありますが、ベストなレシピ決定のため寝ても覚めてもケーキを焼いていた時期があります。
はい、文字通り「寝ても覚めても」にするため、台所ではなく、自分の部屋のど真ん中にワゴンテーブルを持ってきてそこにオーブンを置き、焼けていく様や漂う香りまで五感フル活用で観察していましたが、「部屋のど真ん中にオーブンがある」のは絵的にはかなりシュールだったと思います。

さて、もうひとつ、これは身内事で恐縮なのですが、私の妻の話をします。
私は前職(学習塾の運営)で山梨県富士吉田市の教室に配属になりました。
そのタイミングで結婚もしました。縁もゆかりもない土地の生活でも私は間髪入れず仕事がありましたが、妻は友人知人誰もいないところで仕事も白紙状態でした。
アロマテラピストである彼女はイトーヨーカドーにあるレンタルスペースを借りて、
アロマの講座を行うことにしました。その集客のために自らチラシを作り、配布しました。
近所にあった工業高校の校門前でもビラ配りをしたそうです。
相手は男子高校生です。男性にもアロマを広めようという狙いは理解出来ますが、いかんせん男子高校生です。
「あざっす」「いや、自分そういうのいいっす」
「ウェ~イなんかもらったぜ」
「うわ、おまえもらってやんの!それ化粧品のチラシだぜ(笑)」、
そして何より無言で完全スルーが最も多かったはずです。
結果的に講座には男性はもちろん女性も誰も来なかったそうです。はい、ゼロ人です。
しかしその後もチラシ配りや商業施設での掲示を続け、
わずかではありますが人が来はじめました。
やがて「フジマリモ」という地域のタウン誌のようなもので紹介されることになり、
プチブレイクし、多くの人とのつながりも出来た彼女は、その後私が横浜でお店をやるために富士吉田を離れることになった時も、私の場合は職場以外での友人知人はそこには一人もいませんでしたが、妻は実に多くの人とのつながりが出来ていました。

無から有、0から1へ事を成そうとする時、人はかなりのエネルギーを必要とします。
そしてそれはけっして格好いいとは言えない行為かもしれません。
でも1にならない以上、百も千もありえません。

最近思うことがあります。それは、無ではなく、ゼロでもない今の珈琲文明に、
創業前のあの熱量で何かを取り組んでみたら面白いことが起こりそうだと・・・。
「あの日の熱量」は最初だけの、フレッシュマンだけの特権ではないはずです。
切迫した状況にはないだけに、難しいことだとは思いますが、
来年は熱い年にするという決意表明をして今年は締めくくります。

皆様、良いお年をお迎えください。

珈琲文明 店主 赤澤 智

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